日本刀の鍛錬として、現代でも用いている送風機となる箱状の鞴があります。その箱鞴の内部構造はとてもシンプルなのですが、とても重宝できる優れものです。木で作られた大きな箱の中に、板状のピストンを前後に動かすことで、小さな穴から風を噴出させます。また、穴には弁が付いているので、ピストンを押しても引いても風を送り出すことができるのです。そして、その風を蓄えている風袋が入っている小さな箱には、炉に通じている送風口が取り付けられています。この風袋があることによって、箱鞴は片時も休むことなく風を送り出すことが可能なのです。これによって、炉の温度を急激に上げることができるのです。
長方形の箱鞴の上についている蓋を開けると、木で作られたピストンの周辺には空気が絶対に漏れないように、タヌキの毛皮が張られています。箱自体の素材は、杉の木の柾目板で、その側面はまるで楽器の立鼓のように内側に反りがあります。ピストンを動かすと、その側面の板は風船が膨らむように外反りに膨らみ、風に圧力が加わって風圧が強くなります。この箱鞴は何十年と使い続けても、ピストンを通すための丸い穴の大きさがまったく変わらないのは、ピストンを動かすための手がぶれないからです。ピストンを動かす手がぶれないということは、ピストンを動かすということ一つとっても技術がいるのです。風の強弱を自在に操れて絶え間なく送り出すことができる精密な機械が木製の箱鞴なのです。昔は、箱鞴ではなく素朴な鞴が使われていたそうです。それは、ただ動物の皮で作られた袋のようなものだったかもしれませんが、その場合は炉の温度があまり上がらないと考えられます。そのため、柔らかな趣のある青く綺麗な鉄ができていたとも考えられます。