日本刀の世界には「天下五剣(てんがごけん)」と呼ばれる、特に格式と評価の高い五振りの名刀があります。その名が示すとおり、これらの刀はまさに“天下に名を馳せた五振り”であり、それぞれに特徴や伝説があり、刀剣ファンならずとも知っておきたい存在です。
まず名前からご紹介します。天下五剣とは、童子切安綱(どうじぎりやすつな)、鬼丸国綱(おにまるくにつな)、三日月宗近(みかづきむねちか)、大典太光世(おおてんたみつよ)、数珠丸恒次(じゅずまるつねつぐ)の5振を指します。それぞれが国宝や重要文化財に指定されている、日本の刀剣史を代表する刀です。
この五振の中でも、たとえば童子切安綱は、源頼光が酒呑童子を退治したという伝説が残る刀で、名前の「童子切」もそこから来ています。現存するものは徳川将軍家を経て現在は東京国立博物館に所蔵されています。切れ味と威厳を兼ね備えた、まさに“英雄の刀”というべき存在です。
鬼丸国綱は、「鬼を斬った」という逸話が名前の由来です。鎌倉時代の名工・粟田口国綱が打った刀で、北条時頼の夢枕に立った鬼を斬ったという伝説が語り継がれています。現在は皇室の御物として保管され、一般には公開されていないため、現代においても謎めいた存在となっています。
三日月宗近は、その名のとおり刃文に美しい三日月形の模様が浮かぶことで知られています。優美な見た目と高い芸術性から、五剣の中でも特に人気の高い一本です。平安時代の刀工・三条宗近による作とされており、戦闘の道具というより、美術品としての評価が高い刀です。
大典太光世は、加賀前田家に伝わった大型の刀で、圧倒的な存在感と重厚感が魅力です。その強さから「悪霊を払う力がある」とも信じられ、信仰の対象としても扱われてきました。
最後に、数珠丸恒次は、日蓮宗の祖・日蓮が帯刀していたと伝えられる刀です。宗教的背景が強く、数珠の名が示すように、精神性や信仰と結びついた存在とされています。
それぞれの刀には単なる武器以上の価値があり、背後には豊かな物語が広がっています。天下五剣の“名前”を知るだけでなく、それぞれの“特徴”や“伝説”に触れることで、日本刀の奥深さがより身近に感じられることでしょう。